2011年11月21日月曜日

ボクサーの呼吸法(11.11.21)

 某ボクシングジムの会長に依頼され、プロボクサー(当時世界ランカー)のコンデ ィショニングのアドバイスを行った時のことです。
 ジムのリングでシャドーボクシングが始まり、その動きをじっと見つめていました。 すると、その選手の口から妙な音が聞こえてきました。


パンチを出すタイミングで「ハー」と少し情けないような声を出しているのです。 カンフー映画のような「ハッ、ハッ」という力強い音ではありません。「シュツ、シ ュツ」と息を吐きながらのパンチでもありません。「ハー」と力ない声とともにパンチ を繰り出しているのです。パンチという勇ましい動作には似合わない「ハー」という音 の組合せ。これにはいささか驚きました。

イラスト提供=M/Y/D/S イラスト素材百科。転載不可。

 2時間ほどの練習を終え、コンディショニング指導をしながら、ゆっくり話をしまし た。「ハ―」の理由は、メキシコ遠征時に、メキシカンボクサーがしているのを真似た ところ、いい感じだったので、それ以来続けているとのこと。

 帰り道で「なぜ、“シュツ”ではなく、“ハー”なんだろう」と考えました。実際に声を出 しながら比較してみました。すると腹部の緊張の仕方が両者では異なっていることに気 づきました。筋電図で測定したわけではありませんが、「ハー」の呼気法では腹部の深 層筋がより使われているような感覚があります。
 「ハー」と息を吐き続けると、「シュー」と強く息を吐き続けることでは起こらない 腹部のドローイン(お腹の凹み運動)が起こります。「ハー」の呼気動作で体幹部(コ ア)をより安定させ、有効なパンチにつなげているのかも知れない、というのがその時 考えた理屈です。

 アスリートは身体感覚が優れており、「いい感じ」の動作には敏感で、それを取り入 れることは自然なことです。理屈は後作業なので、感覚が優先されますが、理にかな っていることも多いのでしょう。