2010年12月6日月曜日

スキルそれともカラダの問題?(10.12.06)

 図1は、水泳の基本である“けのび姿勢”です。流線型で抵抗が小さくフラットな姿勢 です。

図1 けのび姿勢 
(図1)

 ところが、図2のように肩関節が硬い人は、腕を進行方向に真っ直ぐに伸ばすことが できません。

図2 肩が硬くて前方に腕を伸ばせない
(図2)

 このような人に、まっすぐ前方に腕を伸ばすことを強要すると、背中や腰を必要以上 に反らし(トリックモーション)、その代償動作によって、腕を前方に伸ばそうとしま す(図3)。
 このような無自覚的に起こるトリックモーションは、高齢者がラジオ体操で腕を頭上 に伸ばすときなどにも、よく見られます。肩の硬い人は、腕を上に伸ばすときに腰を大 きく反らします。

図3 無理に前方に伸ばそうとすると腰背部が過剰に緊張する 
(図3)

 このような姿勢では肩関節に大きな負荷がかかるばかりではなく、腰背部が過剰に緊 張するため、腰痛を起こす危険性があります。
 水泳ばかりでなく、ボールを投げたり打ったりする、腕を頭上に振り上げるスポーツ では、肩の硬さが原因で腰痛が起こったり、逆に股関節の硬さが原因で肩や肘を痛める ことがあります。
 このようなことからも動作を見るときは、部分にとらわれ過ぎないように注意する必 要があります。あくまでも体全体を見ることが基本であり、その上で部分を捉えるべきでしょう。

2010年11月1日月曜日

形が変わると中身も変わる(10.11.01)

 年齢とともに体力が低下し背中が丸くなる傾向がありますが、生活習慣の影響で姿勢が悪くなることも少なくありません。さらには、心の状態も姿勢や動作に表れます。意気揚々としている時は背筋も伸びて、大きな歩幅でサッサッと歩きます。しかし、元気がなくなると背中も丸くなり小さな歩幅でトボトボと歩くなど、動作までも元気がなくなってしまいます。

 横から見るとすぐわかりますが、図Bのように背中が丸くなると、図Aのように胴体の真上あるべき頭が図Bのように前方に飛び出してしまいます。
 ボーリングのボールほどの重さがある頭が、中心軸のラインから前方へ外れると、頭は前へ落下してしまいます。それを阻止するため、首や肩の筋肉が後方へ頭を引き戻そうと働き続けるので、これらの筋肉は常に緊張し、凝りや痛みを生じやすくなります。
 そうなれば、当然、気分も憂鬱になります。
(図)
(図)

人はおかしい時に笑いますが、おかしくなくても笑っていると、本当におかしくなって笑ってしまいます。
 形にこだわり過ぎてはいけないのでしょうが、不思議なことに、形を変えると、心がその状態に呼応するかのように変化します。
 笑顔をつくっていると優しい気持ちになったり、普段は活発な女性でも和服を着ると、途端におしとやかになってしまうなど、形の変化が心に影響を及ぼす例は、枚挙にいとまがありません。
 日本の伝統的な作法や芸能、武道など、いずれも型を重んじています。長い歴史の中で集積された多くの知恵がそこにはあるのでしょう。

 図Bの姿勢を調えるためには、土台である骨盤や体幹を図Aのように立て直すようなアプローチが必要になりますが、普段から姿勢を意識することも大切です。
 姿勢や身体を調えることは、不快な凝りや慢性的な痛みを和らげるとともに、心も軽快にしてくれます。

2010年10月4日月曜日

科学的理論の限界(10.10.04)


タイム かなり昔のことですが、競泳男子100m自由形の限界は50秒であるという、某科学者の実験データーに基づく主張がTVや新聞で紹介されたことがあります。しかし、それから間もなくして開催されたモントリオール五輪(1976年)の100m自由形決勝では、アメリカのジム・モンゴメリーが50秒の壁を破り、49秒99という記録を出して優勝しました。
 前出の科学者の説からしても、これが人類の限界かとも思われましたが、その後も記録は短縮されていくことになります。1985年には、マット・ビヨンディが49秒の壁を破り、2000年にはピーター・ファンデンホーヘンバンドが48秒の壁を破る47秒84という記録を打ち立てています。ちなみに、現在の世界記録はブラジルのシエロフィーリョの46秒91(2010年2月26日現在)。
 振り返れば、50秒限界説を唱えた科学者の論拠は何だったのかということにもなりますが、このようなことは珍しいことではないのでしょう。
 私たちは、得てして科学的理論というようなものを目の前に突き付けられると、水戸黄門の印籠のように無条件でひれ伏してしまうようなところがあります。
 科学は発展への拠り所になることは間違いありませんが、科学的知見にも優劣のレベルがあり、研究デザインや考察には限界があることも認識しておく必要があるでしょう。

2010年9月2日木曜日

親が死んでも食休み(10.09.02)

  “腹がへっては戦ができぬ” という言葉があります。空腹では力が出ないので、活動前には食事をとるべきという意味です。一方で、“親が死んでも食休み”という言い伝えもあります。消化器官に負担をかけないように、食後は休むことが重要であると訴えています。 食事・活動・休息の順番について、前者は食事→活動、後者は食事→休息とそれぞれ正反対の主張をしていることになります。

 農耕時代に現れた支配者に対して、働かされる方の被支配者は“腹がへっては戦ができぬ”と食事を要求し抵抗します。食事をとると眠くなるので、支配者は“食べてすぐ寝ると牛になる”とたしなめ、労働強化をしたという説があります。 食後は副交感神経が優位になることを考えれば、生理学的には“親が死んでも食休み”ということになりますが、空腹で低血糖状態になれば力が出せないということもあるでしょう。


食事  このようなことを考えると、栄養素やカロリーについての情報は多いのですが、それを食す時の心身の状態と栄養吸収との関係や、食事・活動・休息の順番やタイミングに関する情報がとても少ないことが気になります。

 食べて直ぐに活動したり、精神的ストレスにさらされるような状況と、楽しく食べて、食後、充分にリラックスできる状況では、同じ内容の食事であっても栄養の吸収は大きく異なるはずです。
 口に入る前のカロリーや栄養素ばかりに気をとられ過ぎると、大切なことを見失ってしまうかもしれません。

2010年8月5日木曜日

原因を排除するという考え方(10.08.05)

関節 関節をまたいで筋肉が骨についており、筋肉を縮めることで動作が起こります。したがって、しっかりと動作を行うためには、適度な筋肉の強さが必要です。このことは、筋肉を“鍛える”という発想につながります。しかし、動作に影響を及ぼす筋肉同士のバランスを調えるという発想も、忘れてはならないでしょう。

 ヒトには右利き、左利きがあり、右半身と左半身の使い方が異なります。よく使う筋肉は強くなり、使わない筋肉は弱くなります。当然の結果として「強い、弱い、柔らかい、硬い」筋肉が混在することになり、右半身と左半身、身体の前面と背面など互いに影響し合っている筋肉の強さや、柔軟性にアンバランスが生じ、ある方向には動きやすい、あるいは動きにくいなどの状況がおこります。

 誰もが、大なり小なり姿勢や動作のアンバランスを抱えています。片側半身をよく使うスポーツや、日常生活でも一方向に偏った動作を繰り返すことで、アンバランスがより鮮明になることも考えられます。このようなアンバランスを回復させる方法として、個別身体状況を考慮したオーダーメイドのストレッチやトレーニングがとても有効です。

 さらに言えば、このような対症療法的なアプローチと同時に、そこへ至った原因と考えられる動作や行為に気づき、それを排除していくという考え方も必要でしょう。
 何事にも、原因があって結果があります。原因を放置し、結果へのアプローチのみを繰り返すだけでは、何度でも元のアンバランスな状態に戻ってしまう恐れがあるからです。

2010年7月7日水曜日

1に運動、2に食事・・・(10.07.07)

 成人病から生活習慣病に名称が変わったのは、自己責任病であることを強調し 予防につなげる意図があったようですが、改称の効果はなく拡大を続けています。
 「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」という厚生労働省の予防を呼 びかける標語がありますが、運動や食習慣とともに非喫煙習慣は、スポーツクラブスタ ッフとしての当然の責務でしょう。

 さて、禁煙しようと考えている人には弾みになりそうな研究報告があります。 Surgeon  General  Report(米国軍医総監報告)によると、50歳までに禁煙す ると、65歳までの15年間で死亡のリスクが半減するそうです。年齢が高くなって も喫煙習慣をやめることによる、リスク減の効果は極めて大きいということです。
 筑波大学グループの研究でも、「10年くらいタバコを吸わないでいると、完全に吸 わない人と同じレベルに戻る」と報告されています。
タバコ
 「そんなメッセージで、タバコをやめるほど意志が弱くない」という愛煙家の声が聞 こえてきそうですが、健康支援を生業としている指導者に、喫煙ほど不釣り合いなもの はありません。

2010年6月6日日曜日

アダプテッドスポーツ(10.06.06)

 ルールや道具を障がいの種類や度合いに適合(adapt)させることによって、障がいのある人だけでなく、老若男女すべての人が楽しめるようなスポーツ活動をアダプテッドスポーツといいます。

 例えば、加齢で衰えた視力もメガネをかけると視力低下のハンディはなくなります。メガネはアダプテッド・エクイップメントであり、これにより低視力者と正常視力者が同条件となります。
水中運動

プールに入り首まで浸かると体重はわずか10%になります。低体力者、障がい者、高齢者も水中に入れば、陸上動作のハンディキャップを一気に軽くすることができます。これが、重力から解放される水中環境の大きな魅力です。
 まさに水中運動はアダプテッドエクササイズといえます。

 ※10.07.07:一部文章改変

2010年5月2日日曜日

年齢差別をご存知ですか?(10.05.02)

高齢者

「デイサービスセンターで職員が、利用者のことを『太郎さん』『花子ちゃん』と下の名前で呼んでいた。理由を聞くと、『だってかわいいから、つい親しみを込めて名前で呼びたくなった』という。(中略)
 医療現場でも、高齢者が杖をついたり車椅子に乗るようになると、赤ちゃん言葉で話しかけたり、敬語を使わず友達感覚の言葉で話しているなどの場面を見かける。・・・・」

 上の二つの例は、いずれも「エイジズムと社会福祉実践(鳥羽,2005)」という論文に掲載されたエイジズムの具体例です。エイジズムとは年齢差別のことで、年齢や高齢者に対する偏見や紋切り型の見方のことをいいます。
 日本では、まだよく知られていないようですが、アメリカではレイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)とともにエイジズム(年齢差別)が、三大差別の一つとして注目されているといいます。

 気がつかないまま差別行為をしている例を紹介しましたが、高齢者比率の高まっているスポーツクラブでも、起こり得る話です。若いインストラクターが友達言葉で、メンバーに声かけしているシーンは珍しくありませんが、とても違和感を覚えます。
 一人の成人した大人として接することは勿論のこと、年配者には、人生の先輩として敬意を言葉にも表し対応すべきであることはいうまでもないでしょう。

2010年4月1日木曜日

野生への回帰 (10.04.01)

 日本では、死因の6割以上を生活習慣病が占めています。ペットの動物が糖尿病を患うという話を聞きますが、自然界の動物には、メタボも生活習慣病もありません。
 現代の地球上でも、採集・狩猟生活をしている未開地域の原住民には生活習慣病は存在しないようです。


狩猟  アフリカのブッシュマンとロンドンの住民の血圧を比較したTruswellの興味深い報告(1972年)があります。ロンドンの住民は、加齢に伴い血圧が急上昇していますが、20~75歳までのブッシュマンの年代別血圧は、上が120mmhg前後、下は70mmhg前後で加齢に伴う血圧上昇がありません。
 人類の歴史の大半で、食を求める行為として身体活動(採取・狩猟)が存在していました。もちろん、健康づくりのための運動という概念もなく、飽食もなく、生活習慣病もなかった時代です。

 スポーツや運動ばかりではなく、散歩、家事、庭仕事、洗車など日常の活動すべてを含め、「身体活動量を高めよう」というのが、最近の健康づくり運動の考え方です。
 しかし、「病気予防のために、フィジカル・アクティビティを高めよう」と声高に叫んでも、病で倒れたり、大病の兆候や異変を感じるなど困った状況に陥らなければ、人はなかなか動こうとはしないものです。
 食を得るために活動が必要だったかつての人類のように、気がついたら運動していたという上手い仕掛けが、できないものでしょうか。

2010年2月28日日曜日

メディカル・アクアフィットネス(10.02.28)

 2月13日・14日、(社)日本スイミングクラブ協会認定メディカルアクアフィットネスインストラクター資格取得講習会の講義(2H)と実技(3H)の講師を担当しました。
 テーマは、“ 転倒・寝たきり予防 ”

   

 講義では、転倒しやすい身体的要因と予防・改善の考え方を示し、実技では、姿勢・ダイナミックアライメントのチェック、歩行動作改善のための水中PNF、膝痛者への水中アプローチなどを紹介させていただきました。

 今回は、参加者の中に、病院で高齢者からアスリートまでのリハを担当されている理学療法士のEさんがいらしたので、急遽アシスタントをお願いし、病院で日常的に実施している姿勢や関節可動域チェックのデモをお願いしました。Eさん、ありがとうございました。

 ところで、聖路加国際病院理事長で、98歳の現役医師として有名な日野原重明さんが、転ぶ練習をしていると聞いたことがあります。転倒予防に努めることで転倒のリスクは減少しますが、絶対に転ばないという保証はありません。
 そこで、万が一、転んだとしても寝たきりにつながる可能性の高い股関節骨折(大腿骨頸部骨折)などに至らないような“安全な転び方”を練習するという考え方につながるのでしょう。まさに、逆転の発想ですね。

2010年2月2日火曜日

原因不明の腰痛が85%(10.02.02)

 日本人の8割が腰痛経験者といわれますが、原因不明の腰痛が85%を占めるそうです。「腰痛は、画像や問診から病名がつけられるが、実は画像と原因が一致する例は少ない。したがって、漠然と腰痛症と診断されることも多い。原因が特定できる腰痛は15%未満と欧州の診療ガイドラインは明記している。腰痛はありふれた症状ながら実はよくわかっていない(2005年 日本腰痛学会・菊地臣一)」

 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症・すべり症、変形性脊椎症など病名のつけられる腰痛が15%で、その他の85%は原因不明ということです。腰痛で病院へ通っているが、快方へ向かわず、他の方法を模索する人も多く、受け入れ先としてさまざまな民間療法が存在しています。


デスクワーク  腰痛に限りませんが、運動器に痛みや違和感を抱える人は、特有の姿勢や動作のアンバランスを示していることが多いようです。このようなアンバランスをノーマルな状態に回復させるようなアプローチをして、姿勢や動作回復を導ければ、結果として痛みや違和感が消失あるいは緩和することも少なくありません。
 運動器に痛みを抱える成人の割合は4割を超えます(厚生労働省研究班)。整形外科的診断で異常がなく運動適応のケースが多いとすれば、運動指導者が活躍できる場は、ますます広がってきます。

2010年1月4日月曜日

心身一如(10.01.04)

 いつもパソコンを操作している人は、背中が丸くなり猫背になりやすくなります。前傾する頭部を首や肩の筋肉が支え続けるため、肩も凝ります。姿勢の乱れにはさまざまなパターンがありますが、いずれのケースでも筋肉や関節に負担をかけ、慢性痛や不快感、動作不良の原因となります。

デスクワーク
 姿勢は、日常の生活習慣動作や繰り返されるスポーツ動作などの影響を強く受けます。加齢や活動不足による姿勢保持筋力の低下も不良姿勢をつくります。筋肉は関節をまたいで骨に付着しているので、柔軟性がなく縮みっぱなしの筋肉は、骨を一方向に引っ張り続けます。そして、引っ張られ続ける筋肉は縮む力を失い、弱くなってしまいます。

 私はこれを、「ゆるみ筋&こわばり筋」と呼び、不良姿勢をつくる大きな原因の一つと考えています。どの筋肉がこわばり、どの筋肉がゆるみ、その姿勢や動作に影響を与えているのかがわかれば、対処法が見えてきます。

 姿勢や動作は心の状態も反映します。意気揚々としているときは胸を張り堂々と歩きますが、気分が沈んでいるときは、うつむきがちに背中を丸め、トボトボと歩きます。まさに心身一如です。
 反対に、丸くなった背中を伸ばすと気持ちもシャンとするような感覚があります。姿勢や動作そのものも、心の様相に影響与えているのかもしれません。
 無理のない自然体(良い姿勢)で、心と身体を整え、新たな年をスタートさせたいものです。