2008年12月14日日曜日

アクティブレスト(08.12.14)


 水泳は、よく有酸素運動の代表的なスポーツとしてあげられます。ランニング、自転車、と合わせてエアロビクス三大運動と称されていた時代がありました。しかし有酸素運動として陸上のウォーキングやジョギングのようにロングスイムを楽しめる人は中級者あるいは上級者に限定されます。
 つまりスキルを獲得するためのプロセスを経て有酸素運動としての水泳が可能になるということです。当然、初級クラスのような技術習得の過程では、水泳は無酸素運動の要素が強いといえます。

 25mをやっとの思いで泳ぎ終わったらハァハァと激しい息づかいの中で、コーチの説明を聞きながら、少し休んでは繰り返すというようなレッスン風景を目にすることがあります。
水中歩行 このような練習法に対して、例えば25m泳ぎ終わった後に完全休息することを避けて、泳いだ直後は25mをを歩きながら(水中ウォーキングで)スタート地点へ戻るようなレッスン形式にすれば、歩行中の筋ポンプの働きで呼吸循環器系への負担が軽減され、より効率的に疲労が回復することになります。
 このような疲労回復法をアクティブレスト(積極的休息)といいます。スイム後の歩行中にペースクロックを見ながら頚動脈に指を触れて心拍数を計ったり、運動時に感じる「つらさ」のレベルを指標にして、無理のない適切な運動強度をキープすることができるようになれば、より安全で効果的なプログラムへと発展していくのではないでしょうか。

2008年11月10日月曜日

フィジカル・アクティビティ(08.11.10)

 食べたものを記録するレコーディングダイエットが注目されましたが、毎日体重を量り、グラフ化する方法も効果的な減量法として以前から知られています。
 いずれも、事実を認識すること(気づき)から行動変容を引き出そうとする方法論ですが、「ぼんやりとそう思う」のではなく「明確に認識する」ことにポイントがありそうです。
 平成18年の国民健康・栄養調査結果を見るとこれを裏付けるようなデーターがあります。「腹囲をコントロールするために、食事や運動などの生活習慣に気をつけている者の割合」は、過去1年の間に腹囲計測をしたことのない男性では4割、腹囲計測をした男性では7割と大きな差が出ています。女性も同様に、5割に対して8割という計測の有無による大きな違いが報告されています。


チューブでボディメイク 「一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」これは、生活習慣病予防に向け、運動習慣の大切さを強調した厚生労働省の標語です。
 ところでこの「運動」ですが、スポーツやフィットネスばかりではなく、「歩行」、「掃除」、「庭仕事」、「子供と遊ぶ」などの日常活動も生活習慣病予防のための身体活動(フィジカル・アクティビティ)という大きな概念で捉えようというのが、最近の健康運動の考え方です。
 誰もが取り組みやすい身体活動の代表格に、「ウォーキング」がありますが、歩数計を装着するだけで、自然と歩数が増えていきます。活動量の少ない人は、そのことを明確に認識することになるからでしょう。

2008年10月15日水曜日

スポーツ・オノマトペ(08.10.15)


 オノマトペとはフランス語が語源で、擬音語、擬態語を意味します。例えば、「ドボンと飛び込む」のドボンが擬音語で実際の音を真似たものです。「スッと入水し、グッと押さえる」などの「スッ、グッ」が擬態語で、聴覚以外の感覚を言葉に表したものです。
 つまり、五感による感覚印象を言葉で表現するものであり、運動・スポーツ領域で活用されている擬音語、擬態語をスポーツ・オノマトペといいます。
 先行研究では、スポーツ・オノマトペが運動学習に及ぼす効果として、「微妙な動作感覚、動作リズム、動作タイミングを直感的に表現できる」、「特定の抑揚による発声・音声刺激が、普段発揮することができない力を引き出す」、「動作時に発声するオノマトペの音声情報、微妙な力加減、感覚情報、音のリズムにより直感的に理解できる」という報告があります。
 表にある例を見ると、特別に意識することなしに日常的にオノマトペを使用していることに気づきますが、敢えて指導言語として意識的に用いることで、よい反応が得られるかもしれません。
 

2008年9月19日金曜日

逆もまた真なり(08.09.19)


 以前、NHKで、坂の多い長崎の住民と、平地の住民の体力を比較するという科学番組をみたことがあります。体力比較の結果、坂の多い街に住む人の方が、平地に住む人よりも優れた体力を保持しているという内容がそこでは示されていました。
 生活環境が、健康体力づくりに大きな影響を及ぼすということですが、例えば坂の上にある住居を見て、「身体に負担をかける不便な場所にある」と考える人が多いかもしれませんが、「身体が自然に鍛えられる絶好の場所にある」と考えることもできるわけです。
 利便性追求の結果、身体脆弱化傾向にある現代人は後者のようなポジティブな思考をする必要があるのかもしれません。

 逆もまた真なりといいますが、ひとつの面だけをみていると真実がぼやけてしまうことがあります。
●バリアフリー化で転等予防 → 身体を使わない環境は転等しやすい身体をつくる
●膝が痛くて歩けない → 歩かない生活習慣が膝痛をつくる
●転等予防教室 → 上手に転ぶ練習
●薬を飲んで病気治療 → 自然治癒力(免疫力)を高め病気予防
●太っているので動くのが億劫 → 動かない習慣が肥満をつくる
●ニーズをとらえた商品(マーケットイン) → 商品力がニーズを産む(プロダクトイン)

 考えると色々なことが浮かびます。必ずしも一方が正しくて、もう一方が間違っているわけではありません。二律背反が、さらなるアイデアを生む可能性もあります。固定観念にとらわれない自由な発想を心がけたいものです。(自戒を込めて)

2008年8月22日金曜日

運動六分に腹八分 (08.08.22)

 熱戦を繰り広げた北京オリンピックもあと数日で終幕を迎えようとしています。それにしても、中国選手の登場時にあらゆる会場で沸き起こった「加油(ジャーヨ)」の大合唱はすさまじいものでした。
 中国語の「加油」は「頑張れ」を意味しますが、この「頑張って」という言葉は、コミュニケーションツールのように、日本でも日常の様々な場面で使われています。
   スポーツクラブなどでもよく聞く言葉です。インストラクターがクラスのムードを高めていくときに、自然の流れの中で使われる場合もあるでしょうが、この言葉の使い方には注意が必要です。
 中高年者では、運動は全力で行うものであるという意識が自然に働き、頑張り過ぎてしまう人も少なくありません。結果的に「もっと頑張れ」と煽ってしまうことになれば、外傷・障害の発生リスクを高めることになります。
 アスリートでなければ、運動は気持ちよく行う方が効果的です。健康スポーツは、苦しみながらやる必要はありません。そもそも、歯を食いしばりながら頑張り続けるプログラムでは長続きしないでしょう。  腹八分という言葉がありますが、運動強度は6割で十分な効果があります。
 「運動六分に腹八分!」何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」ということです。
 運動習慣を持つことは重要ですが、運動を頑張り過ぎないことも大切です。

2008年7月17日木曜日

ゆるみ筋&こわばり筋 (08.07.17)


 6月に「ゆるみ筋&こわばり筋のコンディショニング」という長いタイトルの著書を刊行しました。出版社(道和書院)から、売れ行き好調と聞かされホッとしているところです。  実は、この本は、執筆よりも、タイトル決定に至るまでに、より多くの時間を要しました。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ・・・身体にとって不都合な筋の状態を「ゆるみ筋」と「こわばり筋」という二つの言葉を手がかりに表現してみることにしました。敢えて難解な言葉の使用を避け、平易な言葉でシンプルに説明することで、わかりやすさへの道が、拓けてくるのではないかと考えたからです。
 わかりやすいキーワードであるがために、「こわばり」はほぐし、「ゆるみ」は締めなおす(強化する)という対応法へのイメージ化へ、スムーズにつながるのではないかと、言葉の持つメッセージ力に期待しています。・・・・・
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 前書きからの抜粋ですが、専門家が好む難解な専門用語を使った途端、言葉そのものが高いハードルとなり、肝心な内容の普及を妨げる可能性があるのではないか、そんなことを延々と考えながらこのタイトルに行き着きました。
 幸いにも「タイトルが面白い」と同じくらい、「内容がわかり易い」という多くの声をいただいています。
 身体パフォーマンスの向上、慢性痛の予防・緩和を目指すヘルス・フィットネス指導者、スポーツ指導者のお役に立てればと願っています。

 
  
  7月13日、新宿スポーツセンターで開催された、日本スイミングクラブ協会関東支部主催 指導力向上セミナー「ゆるみ筋&こわばり筋のコンディショニング」の模様

2008年6月15日日曜日

メタボで人が動く!? (08.06.15)

 6月4日、(社)日本スイミングクラブ協会関東支部主催の経営者セミナーで、「特定保健指導とクラブビジネス」の演題にてスピーカーを務めました。
 医療制度改革を非難する声や、国民皆保険制度の崩壊を危ぶむ声も聞こえてきますが、国は、「健康保険は簡単には使わせない」、「病気予防・健康管理は自己責任で」という方向に強く舵を切っているようにみえます。
 一次予防は理想的ですが、疾病に向かう機能変化の段階であっても、「痛みもない」、「困ってもいない」状況では予防のための行動をとる人は多くありません。しかし、これからは少し変わってくるのかもしれません。

 

2008年5月16日金曜日

中年肥えやすく、記憶保ちがたし (08.05.16)

 「身体は適度に使えば強化され、使わなければ脆弱化する」というトレーニングの原則があります。加齢に伴い体力が低下していくことは万人が認めることですが、虚弱高齢者が存在する一方で、若者も真似できないほどの体力・気力を保持する高齢者が存在することも事実です。
 現在エベレスト登頂に挑戦中の三浦雄一郎氏は75歳。96歳の現役医師、日野原重明氏の活躍も広く知られています。
 加齢に伴い活動量が減少すると、負荷の小さな環境に身体が適応することで体力が低下していきます。活動体力が低下することでますます不活発になり、虚弱化を進行させるという側面を見逃すことはできません。
 頭と身体を上手に刺激し続け、生きがいを探し、人生を楽しむという姿勢を持ち続けている人は、老いてますます元気ということなのでしょう。

 昨年11月、日本認知症学会と東京都老人総合研究所主催の「認知症はここまで治せる!防げる!」という公開講座に参加しました。関心の高さを表すように一階席も二階席も満員。
 「中年肥えやすく、記憶保ちがたし」というフレーズで、場内の笑いを誘ったのが群馬大医学部の山口春保教授。肉より魚と野菜を食べ、赤ワインを少量飲んで、人と楽しく交わり、大いに笑って、週に2回は運動で汗をかき、短時間の昼寝をし、前向きに生きることが脳老化を防ぐ秘訣とまとめました。
 週2回の運動は、「楽しくない」とか「辛い運動」ではダメで、「楽しく行なわなければ効果がない」というマウスの実験結果をベースにした話には説得力がありました。
 運動実践者にとっては、耳を傾けるべき貴重な情報といえそうです。

2008年4月5日土曜日

身体は心地よさを求めている (08.04.15)


①何を行うのか(種目)
②どのくらいの強さで行うのか(強度)
③どのくらいの時間を行うのか(時間)
④1週間に何回行うのか(頻度)

 これらは、運動処方を行う際に考慮すべき4つの要素です。フィットネス指導者であれば、誰もが知っていることですが、スポーツクラブでトレーニングしながら周りを観察していると、意外に適切な運動強度で実施している人は少ないように思えます。
 ストレッチングなどはいい例で、顔をゆがませ、歯を食いしばりながら行っている人もめずらしくありません。スタジオで行うエアロビックエクササイズも、かつては心拍数をチェックしながら行っていましたが、今はどのような強度管理をしているのでしょうか。
 インストラクターの掛け声に呼応して、必死に限界に挑戦しているようなシーンを見かけることもあります。
 運動強度は個人の体力に合わせて設定するものなので、激しく見えてもその人にとっては適切な強度であるかもしれないし、軽い運動に見えても、ある人にとっては強すぎることもあります。
 つまり、見た目の強度による判断は難しいということであり、運動実施者が適切な強度管理(自己管理)が行えるようなインストラクションの重要性を物語っているともいえるでしょう。
 健康づくり運動は気持ちよく感じる程度の強度で十分な効果があります。
 ベストの強度を知っている身体からの声に、もう少し耳を傾けてみてはいかがでしょう。
 身体は心地よさを求めているのですから。

※08.09.19:内容改変

2008年3月17日月曜日

子ども時代の運動習慣がもたらすもの (08.03.17)

 デンマークの世界的な運動生理学者ベン・サルチン博士が、運動習慣と心臓循環器系の死亡率の関係について、次のような報告をしています。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「子どもの時からずっと運動をしていないグループ」の死亡率を1.00とした場合、「子どもの時から現在も運動を継続しているグループ」は0.52と約半分の死亡率になっている。「子どもの頃には運動をしておらず、大人になってから運動を始めたグループ」の死亡率は0.66と運動開始後4年で、その値が、3割以上低下している。この値は、「運動継続してきたグループ」と比べると高いが、4年間活動的な生活を続けただけで、死亡率を3割から4割下げることができるということを示している。
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


子ども時代の運動習慣  大人になってからの運動習慣でも、死亡率を大幅に下げるという事実には大いに注目すべきでしょう。
 しかし一方で、サルチン博士は、子どもの時に活動的であると、大人になってからも活動的な場合が多く、子供の時に非活動的であると大人になってからも非活動的な生活スタイルになるケースが多いというデータを示し、子ども時代に生き生きとした活動的な生活を送ることの重要性を訴えています。
 なぜならば、子ども時代の活動的な生活習慣は、その時期を健康に過ごすというばかりではなく、生涯にわたる健康づくりに大きな影響を及ぼすことになるからです。

(参考文献:子どものからだと心・連絡会議編著「子どもの世紀ヘのプレゼントより」ブックハウスHD、2000年)

2008年2月12日火曜日

姿 勢 (08.02.12)

 背筋を伸ばして胸を張る「気をつけ」は、一見すると真っ直ぐで綺麗な姿勢のように見えます。しかし、実際にやってみると背中の筋肉が緊張し、とても窮屈な姿勢であることがわかります。当然、不自然な姿勢を長時間維持することはできません。


双葉山定次の肖像

日本人の本来の立位姿勢は、現代に息づく武道でも伝承されている「上虚下実(じょうきょかじつ)」であるといわれます。下半身はしっかり地に立ち、上半身は無駄な緊張を排除した自然体です。名横綱として知られる「双葉山」が、美しい日本人の立ち姿の例として取り上げられることがありますが、その写真をみると身体に無駄な緊張感がなく、自然で美しく、しかも隙がない立ち方に見えます。


* 国立国会図書館HP画像。画像の複製には国立国会図書館の許諾が必要。 


 姿勢は日常の身体の使い方から大きく影響を受けます。前かがみの動作が習慣になれば、身体は適応し、猫背になりやすくなります。四六時中、姿勢を意識し続けるのは難しいことですが、気がついたときは直ぐに修正する習慣は身につけたいところです。

 加齢や活動不足による姿勢保持筋力の低下も不良姿勢をつくりますが、鍛えれば90歳を超えても筋力は強くなります。カラダづくりに遅すぎる年齢はありません。

2008年1月13日日曜日

後ろ歩き (08.01.13)

 人間は生まれてからは、常に前方に歩いています。50歳ならば49年間は前ばかりに歩いていることになります。何十年間も前歩きをしているのですから、せめてクラブでは、後ろ歩きを積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。人間のカラダは形態的に見る限り、決して、後ろ歩きに都合のよい構造にはなっていませんが、球技などでは、後方へすばやく移動する動作をよく見かけますし、体操競技には、バク転などの後方動作が多く存在します。歩きではありませんが、水泳には後ろ向きに泳ぐ背泳という種目もあり、クロールで練習した後に背泳ぎでカラダをほぐすようなことは昔からよく行われてきました。

 ランニングマシンで後ろ歩きをしている人を見かけたことがありますが、これは危険なのでお勧めできません。何といっても安全に行える場所はプールです。最近は、泳ぐ人より歩く人の方が多く、歩きやすい環境になっています。後ろの人やプールの壁との衝突さえ気をつければ、安全に行うことができます。ペアで向かい合って歩けばより安全でしょう。

 高齢者教室で後ろ歩きを中心に行ったとき、「ヒザ痛なので水中は楽。それでも前に歩くと少し痛みを感じていたが、後ろ歩きではまったく痛みがない」、「後ろ歩きで、腰痛がなくなった」、「歩幅が広くなった」などの声も聞かれました。ひょっとしたら、後ろ歩きには未知の効果があるのかもしれません。
「前歩き」のおまけ程度に「後ろ歩き」を少し取り入れるというのではなく、「後ろ歩き」を中心に行うことがポイントです。もちろん、やってみて違和感がある場合は、決して無理には行わないでください。